適性検査で「見えるんです」と言った女性

この人形、笑ってるよ・・・「見える」

 

私が現役の教官だった時のエピソードです。

 

私が勤めていた教習所にも当然、適性検査がありました。

その適性検査の問診の中に「私は人に見えない物が見える」という質問がありました・・・。あるんです。こんな質問が、リアルに。

 

今時の元気な若者であればふざけて“はい”にマルをつけて問診書を提出する人もいるわけですが、めずらしく女性で、”はい”と回答した人がいました。

 

その女性は色白のスラッとしていて、やや背が高めで、束ねていない黒い髪の毛が背中まで伸びているという風貌でした。

 

他の学生さんと会話を交える様子も一切無く、「目立たない」印象、いいえ、「影が薄い」という方がぴったりの存在感のない感じの彼女だったのですが、私はなぜか、入校式の時から「影が薄い」彼女の、「不気味なほどに透明な存在感」が気になっていました。

 

 

不気味な茂みに何かが見える

 

 

気になってしまうほどの影の薄さ・・・

 

そんな彼女の一見矛盾しているとも受け取れるような不気味な存在感をどことなく感じていた私は、適性検査の時にもなぜか、にぎやかな周囲とは対照的な彼女の静けさがかえって気になっていました。

全員の適性検査が終わって、解答用紙を集めた時に、偶然にも彼女の薄い字で書き込まれた回答が目に入ってしまいました。

 

「私は人に見えない物が見える」     ”はい”

 

「???」

私は一瞬自分の目を疑いました。どう見ても他の「うぇーい」な学生たちとは違った、不気味なほど物静かな彼女が、冗談でこんな回答をするとは思えなかったからです。

 

その場に立ち止まったままの私の背後の方から か細い「クスッ」 という笑い声にも、すすり泣きとも受け取れるような声が聞こえてきた時に、私はさっきまで教室にいたはずの他の生徒たちがみんな教室から出て行って、残っているのが私と彼女だけだということに気づきました。

 

金縛りの呪文をかけられたような錯覚に陥りそうになりながら、私はその声の、つまり「存在感の透明すぎる存在」に向かって振り向こうと、身体をひねりました。

「き、君、」

やっとの思いで、私は声を搾り出しました。

「何で君は、ここにマルをつけたの?間違ったかな・・・?」

 

手が震えそうになるのを必死にこらえながら、私は回等用紙を彼女に差し出しました。

 

すると彼女は、懐かしい想い出に浸っているような表情を浮かべながら、ゆっくりと答えました。

 

「私、いつも家にいると、大好きだった亡くなったおばあちゃんが見えるんです」

そして彼女はこれまでの存在感の無さがウソであるかのように、ニッコリと、やわらかい表情で微笑(ほほえみ)を私に返してくれたのです。

 

すぐさま私は、

「自分が運転していたとしたら、見えるの?見えないものが見える?」

「そういう意味の質問なんだよ?」

とせき込むように彼女に問い詰めました。

 

すると彼女は再び、あの「透明な存在の無さ」に包まれたようになり、一瞬戸惑ったような、遠くを見るような表情に変わったことを私は感じました。

そしてゆっくりと、彼女の唇が動きました。

「そ、そんな・・・そんな・・・」

 

「えっ、そんな、何?」

と恐れながら、さらに問い詰める私。

 

 

 

 

「そんな分けがないじゃないですか、先生、フツーに考えましょうよ」

 

私はしばらくの間をおいて、

「あっ、そっ、そうだよね、はははっ」

と、答えました。

 

 

「先生って、天然ですね。この教習所、なんだか楽しそう。」

 

 

というわけで、私のひと夏の恐怖体験は、終わったのでした・・・。